セルフネグレクトに陥った方の孤独死
セルフネグレクトとは

成人が通常の生活を維持するために必要な行為を行う
意欲・能力を喪失し、自己の健康・安全を損なうこと。

成人した人が通常の生活を維持するにあたっては、必要最低限の衣・食・住を整える必要があります。
しかし、セルフネグレクト状態になると、どんなに服が汚れていて、たとえ異臭を放っていたとしても同じものを着続ける。食事をほとんど取らない。家がゴミ屋敷状態になる、といった、生活する上で行うべきことを行わず、放棄してしまいます。
子どもの育児や親の介護を放棄する「ネグレクト」という言葉がありますが、セルフネグレクトは、まさに「自らを放棄してしまっている状態」であるといえます。
セルフネグレクトはこれまで高齢者が多いとされていましたが、30代から40代といった若い世代であっても、セルフネグレクト状態から孤独死に至ってしまったケースが報告されるなど、成人した方ならば、どの年代であってもリスクがあることがわかっています。
まさにセルフネグレクトは成人した方なら誰もが陥る可能性がある、社会的な問題であるといえるのです。

孤立

孤立というと、家族や会社、地域社会と関わりを自ら断ってしまった状態、そう思った方もいらっしゃるでしょう。
高齢者においては、確かにそういったケースが多いのですが、若い方の場合、この孤立が「過度な仕事」によって孤独が引き起こされるケースもあります。朝早くから夜遅くまで仕事。
友人たちからお誘いを受けても、仕事を理由に断り続けたことで、次第に疎遠になっていく。
親から電話をもらっても、心配をかけたくない、という思いからいつも通りにふるまってしまい、本当は辛いという弱音を、家族にも友人にも、誰にも吐くことができない。
こうして何もかも仕事によって支配され、それまで自分が積み上げてきたコミュニティから孤立してしまうことでも、セルフネグレクトを引き起こすリスクは高まってしまいます。

身体機能の低下

生活を維持するために行う、掃除・料理・洗濯。
身体機能が低下することで、これらを行うことが難しくなってしまうケースもあります。
自分で行うことが難しくなったとき、周囲に助けを求め、適切なフォローを受けることができれば、まだセルフネグレクトが起こるリスクは低いといえます。
一方で、身体機能の低下に加えて先ほどあげた孤立状態であることや、適切なフォローを受けることができないと、生活を維持するための掃除・料理・洗濯をやりたくてもやれない、という状態から、徐々に、「もうやることは無理」というあきらめが勝ってしまい、セルフネグレクトを引き起こすリスクは高まります。

認知症、精神疾患などによる判断力の低下

本来行わなくてはいけないことが、行えなくなってしまうセルフネグレクト。
これは、認知症や精神疾患などによる、判断力の低下によっても起こり得ます。
認知症の場合は、徐々に、自分が何をすべきなのかの判断がつかなくなってしまいます。
そのため、たとえば着替えをしなくてはいけない状態なのに、その判断ができないが故に着替えをしなくなってしまうのです。
また認知症以外にも、精神疾患によって判断力が低下してしまい、結果としてセルフネグレクトに陥ってしまうケースもあります。

経済的困難

生活を維持していくためには、必要最低限の経済力が必要です。
しかし、経済的困難となってしまうことで、生活の維持すら難しくなってしまうケースもあります。
このとき社会へ助けを求めることができれば、生活保護等の支援を受けることができますが、助けを求めることができないと、経済的困難がさらに加速してしまい、セルフネグレクト状態に陥ってしまうリスクは高くなります。

孤独死との関係と対策

一人暮らし世帯の増加に伴い増えている、孤独死。
ある調査によると、孤独死をした方のうち約80%の割合でセルフネグレクトと考えられる事例が含まれていたことがわかっています。よって、セルフネグレクト状態である方を早期に発見し、介入することができれば、約80%の孤独死は防げる可能性がある、ということがいえます。では、セルフネグレクト状態である方を助け、孤独死を防ぐためには、どういった支援が必要となるのでしょうか。

自治体の取り組みと支援

先ほどの調査では、各自治体へどのような対策を行っているかも調査しています。
その結果を見てみると、最も多い対策が「訪問(36.0%)」、次いで「介護予防(20.4%)」「見守り・声掛け(18.1%)」と続いています。
訪問は、民生委員や保健師等自治体の職員が行っている自治体の他に、地域ボランティアへ依頼している自治体もあり、自治体によって対策にばらつきがあります。
また、自治体で行う支援については、対象者から拒否されてしまい、それ以上の介入ができない、個人情報保護の観点から詳しい情報を地域住民へ提供できない等の課題も多く、自治体として関われることは限られてしまっているのが現状です。

地域包括センターとは

地域包括支援センターは、市町村に設置された、住民の健康や生活の安定のために必要な支援を行う施設です。
主な業務は介護予防支援および包括的支援であるため、セルフグレクトや孤独死を防止するための対策も、主に地域包括支援センターが関わっています。
職員には保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置されており、それぞれの専門性を生かし、より住民のニーズにあった支援が行えるよう、考慮されています。

周囲ができること

では、セルフネグレクト状態である方を助けるために、周囲ができることはなんでしょうか。
それは、「セルフネグレクト状態となってしまった場合、周囲の人々が団結し、拒否等があったとしてもその場から救い出す行動力を持つこと」です。
セルフネグレクト状態となってしまった場合、本人は全てにおいてあきらめの気分が勝るため、どんなに援助を行おうとしても拒否してしまいます。
このとき、周囲は本人の意思だからと拒否を受け止めるのではなく、その場から救い出すために、周囲の人々が協力し、ゴミ屋敷化した部屋を片付ける、身体を清潔にする、等の援助を行うことで、本人の「やる気」を引き出すことが大切です。
これらの行動は、一人で行うことはできません。
周囲の方々のセルフネグレクト、そして孤独死を防ぐためには、家族や地域社会におけるコミュニティの構築が、何より重要となるのです。

まとめ

近隣の方はみんな顔見知りだった時代から、隣に誰が住んでいるかもわからない時代へなりつつある今、
自ら生活を放棄するセルフネグレクトは、まさに時代の変化が生みだした、新たな社会問題といえます。
とはいえ、セルフネグレクト状態である方を救うために周囲が行動を起こすことは、並大抵のことではありません。